監修:県立広島病院 生殖医療科 原 鐵晃 先生
妊娠って奇跡みたいなもの
避妊をしなければ、妊娠できる、妊娠させることができると思っていませんか? 一般的に、健康な若い男女が妊娠をしやすいとされる時期にセックスをしても、妊娠の確率は約20~30%ほどだといわれています。 1度に数千万個の精子が膣内に射精されても、卵子がいる場所までたどり着けるのは、ごくわずか。 精子は卵子に出会うまで、とても長く過酷な旅をして、数億個のなかで生き残った、たった1つの精子だけが、卵子と受精することができるのです。 妊娠とは、さまざまなタイミングが重なり合った、二人の間で起こる奇跡といえるでしょう。
妊娠のしくみ
女性の卵巣の中で一生分の卵(卵子)は眠っています。目覚めた卵子の中から、1個だけが排卵に至ります。
精子は男性の精巣内で、精子のもとの細胞から約74日間かけて作られます。
射出された数千万個の精子は、膣、子宮、卵管を進むにつれて徐々に減少し、受精の場である卵管の最も太い部分に到達できる精子は60個程度といわれています。
そして排卵された卵子とたった1つの精子が受精し、受精卵となります。
受精卵は細胞分裂を繰り返しながら着床の場である子宮を目指します。子宮に到達した受精卵は子宮内膜へ着床し、妊娠が成立します。
つまり、妊娠するためには、卵子と精子が元気であること、受精の場となり受精卵が育つ卵管、着床し受精卵を育む子宮が十分機能していること、卵子や精子が出会うタイミングなど、さまざまなことが重要となってきます。
女性の妊娠と年齢について
卵子は女性が生まれる前の胎児期に増えて最も多くなりますが、その後減少していきます。 思春期以降、毎月1個の卵子が排卵されますが、消えていく卵子の方がはるかに多いのです。 そして卵巣の中の卵子の数は年齢とともに減少し、枯渇すると閉経に至ることになります。 卵子の数は生まれる前から決まっているため、増えることはありません。また、その質も低下していきます。 精子は精巣の中で新しくつくられていますが、精子を作る能力は生活習慣などの外的要因と、女性ほどではないですが年齢の影響を受けるといわれています。
「子どもを授かりたい」と思ったら
まずは検査から
子どもを授かりたいと思ったら、まず初めにできること、それはあなた自身やパートナーの体の状態を知ること。 広島県では、将来子どもを授かることを望むご夫婦に、まずは2人で検査を受けてみることをおすすめしています。 2人の未来のために、検査を受けることから始めてみませんか?
何で検査が必要?
妊活を行ってもなかなか妊娠しない場合は、不妊検査を考えたほうがよいでしょう。 一般的には、女性の排卵日を考えたうえで性交を行っても、1年間妊娠しない場合(女性の年齢が高い場合は6カ月)で不妊検査がすすめられますが、心配であれば早く初めても大丈夫です。 重要なのは、「男女とも、同じタイミングで検査を行う」こと。 不妊治療は男女のうちで、条件のよくない方に合わせて治療方針を決定します。 あなたとパートナーに合った不妊治療を見つけるためにも、まずは2人で一緒に検査を行いましょう。
検査の内容・方法は?
女性の不妊検査は、月経周期に合わせ次のような検査を行います。
1)基本的な検査
①内診・経腟超音波検査
産婦人科診察室の診察台(内診台)で行います。
子宮・卵巣・腟内を診察するとともに、腟からの超音波プローブにより子宮筋腫(きんしゅ)・卵巣のう腫・子宮内膜症などの異常の有無を確認します。
超音波検査は、卵巣予備能の検査(卵巣にどれくらいの卵子があるかを知るための検査)としても行います。②子宮卵管造影検査
子宮卵管造影検査は、X線による透視をしながら子宮口から子宮内へ造影剤を注入し、子宮の形や卵管の通過性を見る検査です。
③血液検査
ホルモンの検査を行います。主に女性ホルモン・男性ホルモンや卵巣を刺激する卵胞刺激ホルモン・黄体化ホルモンなどを検査しますが、その他にも母乳を分泌するプロラクチンや甲状腺ホルモンの検査も行います。 ホルモンは月経周期によっても変化するので、月経期・黄体期などに分けて検査します。
さらに、卵巣予備能の検査の1つとして「AMH(抗ミュラー管ホルモン)」の検査も行います。
場合によっては、糖尿病などの全身性疾患の検査を行うこともあります。④子宮鏡検査
子宮鏡検査は卵が着床する子宮内腔を直接観察する検査です。
この検査で、ポリープや粘膜下筋腫などの腫瘍性病変や、内腔の癒着などを診断することができます。
2)特殊な検査
①MRI検査
磁場を用いて体の断面像を撮る検査で、子宮や卵巣形態の精密な画像が得られます。
超音波検査により子宮や卵巣に何らかの異常を認めた場合の精密検査として行われます。
子宮筋腫や子宮内膜症病変の診断や、卵管水腫(すいしゅ)など、不妊の原因となる疾患を見つけることができます。②腹腔鏡検査
腹腔鏡検査は臍部(おへそ)からカメラを入れて腹腔内を観察する方法で、全身麻酔下に手術室で行います。
子宮・卵巣をはじめとする骨盤内臓器の状態を確認、子宮内膜症や卵管周囲の癒着などを発見できることがあります。
また、卵巣嚢腫や子宮筋腫などがある場合には切除することが可能で、多嚢胞性卵巣症候群の治療(卵巣開孔術)を行うこともできます。
検査期間について
女性の不妊検査は、月経周期に合わせて検査を行うため、基本の検査が終わるまでに、1~2カ月程度かかります。
妊活中に気を付けたいポイント
①適正な体重をキープしよう
まずは、自分の体格指数BMI値を計算してみましょう。
【計算式】体重(kg)÷身長(m)の2乗
BMIの値は、18.5~25未満が標準範囲です。肥満は月経異常の原因となり、妊娠しづらくなります。さらに高血圧や糖尿病といった妊娠合併症のリスクも高まります。
男性の場合も、肥満は妊娠にマイナスの影響を与えるといわれています。
また、痩せすぎは月経不順をひき起こすこともあり、妊娠中の母体の低栄養は、子どもが将来的に生活習慣病を抱えるリスクが高くなります。-
②たばこをやめよう
たばこは、男性にとっても女性にとっても妊娠しづらくなる原因となります。
また、妊娠中の喫煙は流産や早産のリスクを高め、低出生体重児や先天異常、乳児突然死症候群のリスクが上がります。
受動喫煙(他の人が吸っているたばこの煙に接すること)でも影響されます。男女ともに、たばこはやめましょう。 ③バランスのよい食事を摂ろう
妊娠するための体づくりには、多くの栄養をバランスよく摂ることが大切です。 中でも葉酸は妊娠初期に必要となる栄養素で、不足すると胎児の神経管の異常につながる可能性があります。妊娠を計画している女性は、食事+400μgの葉酸の摂取が推奨されています。妊娠を考えた日から、サプリメントなどで摂取を始めましょう。
また、カフェインやアルコールの過剰摂取はやめましょう。④健康診断、歯科検診、がん検診をうけよう
妊娠前から自分の身体の健康状態を知り、適切に対処することは、不妊症や不育症の予防につながります。
妊娠が可能な年齢の女性に多いがんとして、乳がんや子宮頚がんがあります。妊娠前から定期的に検診を受け早期に対応していくことが大切です。⑤適度な運動で心もからだもリフレッシュ
日頃から適度な運動をこころがけましょう。
早歩きでのウォーキングや自宅での筋トレ、ストレッチなど手軽にできる運動がおすすめです。
適度な運動は、血行を促進して筋肉をほぐし、ストレスを軽減する働きもあるといわれています。
知っておきたい
不妊のこと
不妊とは?
「不妊」とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しない状態をいいます。
日本産科婦人科学会では、この「一定期間」について「1年とみるのが一般的である」と定義しています。
また最近では、約3組に1組のご夫婦が不妊を心配したことがあり、約4.4組に1組のご夫婦が実際に検査や治療を受けているというデータがあります。
参考:公益財団法人日本産科婦人科学会ホームページ
出典:国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」
女性の不妊の原因は?
女性の不妊症には、以下の原因が考えられます。
- 排卵因子:高プロラクチン血症、多のう胞性卵巣症候群、精神的ストレス、急激な体重減少に伴う排卵障害 など
- 卵管因子:骨盤内炎症や子宮内膜症などによる卵管の閉塞、狭窄(きょうさく。卵管がすぼまって狭くなること)、癒着 など
- 子宮因子:子宮筋腫(特に粘膜下筋腫)や子宮内膜ポリープ、子宮内癒着、子宮奇形 など
- 子宮頸管因子:子宮頸部の手術、子宮頸管炎、子宮頸管からの粘液分泌異常 など
- 免疫因子:抗精子抗体 など
- 子宮内膜症:チョコレート嚢胞 など
- 原因不明:不妊症の検査をしても、どこにも明らかな不妊の原因が見つからない場合もあります。
妊娠が成立するためには、性交により卵管内で卵子と精子が出会い、受精して子宮内に着床するまでの過程で、多くの条件がそろう必要があります。 そのため、不妊症の原因は男女ともに多くの因子があり、いくつかの原因が重複していることが考えられます。 現在の検査では、はっきりとした原因が見つからない場合や、パートナーの男性に原因がある場合もあります。不妊症カップルの50%程度に男性側の要因もあるとされており、男性不妊の原因検索は治療方針の決定に重要で、婦人科と泌尿器科の連携が推奨されています。
不育症について
不育症とは
不育症とは「妊娠は成立するが流産・死産を繰り返して子どもを得られない場合」と定義されており、超音波検査で妊娠が確認された後の流産の回数によって診断されます。 一般的には、原因にかかわらず2回以上連続して流産を繰り返す場合に、不育症といいます。 妊娠10週以降に原因不明の流産歴が1回でもあった場合は、抗リン脂質抗体症候群の可能性があるので、不育症の検査を受けることをおすすめします。 2回以上連続して流産する確率は、妊娠経験者の約5%、3回以上連続して流産する頻度は妊娠経験者の約1%といわれています。 不育症の約70%が原因不明で、原因が分かる場合には抗リン脂質抗体症候群、内分泌異常(甲状腺機能異常、糖尿病)、子宮形態異常(主に中隔子宮)、夫婦染色体異常があります。
不育症に関するQ&A2人で一緒に始める
女性の妊活では、早期の原因究明と、適正な体重維持や健康診断など日頃からの体調管理が大切だとお伝えしました。
妊活は、男女が力を合わせて一緒に取り組むことがとても大切です。
「2人で妊活」のページでは、健康的な食生活のこと、仕事との両立のこと、妊娠にまつわるウワサの真相など、
是非パートナーと一緒に読んでいただきたいお話をご紹介します。